神像彫刻および関連する肖像彫刻と仏像の調査研究を実施した。調査作品のなかで、広島県内の神像彫刻に注目すべき作品があった。同県の御調八幡神社の神像群は、近年紹介された作品であるが今回改めて詳細な調査を行ない、新知見を得ることが出来た。造像年代についてもさらに考察の余地があろう。南宮神社には11躯の未紹介の神像が伝来し、それらについても詳細な調査を実施した。11躯は、11世紀後半から12世紀頃に造像されたもので、これまでに作例が知られていない童女像を含む。また、女神像の仕草はそれぞれ異なり、極めて興味深い作例である。この時期は仏教彫刻は停滞期といわれるが、図像のない神像彫刻においては表現上さまざまな工夫がなされたことが観取される。 神像彫刻のほか仏教彫刻の調査でも成果があった。昨年執筆した論文で、面部が金色の神像彫刻に関連して、面部が金色の天王像は希であることを指摘したが、和歌山道成寺の毘沙門天立像がその例であることが判明した。その諧謔的な表情と金色の関連を神像彫刻という観点からの考察も不可欠と思われる。また、肖像彫刻の調査研究も実施したが、仏像以上に人物表現と親近性のある神像彫刻の研究において有益であった。
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