研究概要 |
視覚的単語の認知には多様な視覚情報および言語情報の処理が関与しているが,その視覚的単語認知過程において,単語全体やその単語を構成する個々の文字がもつ視覚情報と言語情報がどのように処理され,両処理の間にはどのような関係があるのかを調べた.視覚情報に関しては,視覚的複雑さ(主観的複雑度)の異なる漢字の単語や文字にローパス型空間周波数フィルターをかけることによって,その単語や文字に含まれる空間周波数成分を変え,細部までの鮮明度を操作した.言語情報に関しては,文字と単語を用意することで語彙情報の程度を,また主観的親密度の異なる単語を用意することで単語の親近度をそれぞれ操作した.これらの単語や文字をCRTに呈示し,ローパスフィルターのカットオフ周波数を変化させ,単語と文字の認知閾を測定し,主に以下のことを明らかとした. 1.視覚的に単純な単語(文字)の認知閾は複雑な高い単語(文字)のそれよりも低く,視覚的に複雑な単語ほど,認知するには高い空間周波数成分(細部まで鮮明であること)が必要なことが再度確認された.この傾向は文字単独,単語全体,単語中の文字に同様に認められた. 2.視覚的複雑さが同じ程度であれば,単語中の文字の認知閾は文字単独のそれよりも低かった.すなわち,単語優位効果が認められた.つまり,単語認知過程では,語彙情報が存在することによって個々の文字の認知が促進されること,この促進効果は単語(文字)の認知に必要な空間周波数成分(細部までの鮮明度)の違いや単語の親近度とは独立に働くことが明らかとなった. 3.視覚的に複雑な単語の認知では,親近度が低い単語の認知閾が親近度の高い単語のそれよりも高く,文字単独の認知閾よりも高かった.つまり,単語認知に影響する親近度の高低は,単語を認知するために高い空間周波数成分を必要とする場合(単語の細部まで鮮明な場合)にだけ抑制的に働くことが考えられた.
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