研究概要 |
視覚・触覚間のクロスモーダル注意作用を扱った研究では,ある空間位置への視覚手掛り刺激の先行提示が後続の触覚ターゲットの処理効率を変調することが見出されている。しかし,このような視覚・触覚間クロスモーダルリンクの作用が,形態や大きさといった非空間的属性の処理においても存在するか否かについては明らかでない。そこで本研究では,視覚刺激による形態的手掛りの先行提示が、後続の触覚による形態知覚の成績に対して何らかの促進的・抑制的影響を及ぼすかといった点について心理物理学的手法を用いて検証した。 実験では,被験者の左手の人さし指に触覚刺激を提示し,触覚ターゲット刺激の形態的特徴の弁別を求めた。触覚刺激の提示に200msもしくは700ms先行して,被験者の眼前のCRT画面に,触覚刺激と一致するかもしくは不一致な形態的要素をもつ、視覚手掛り刺激を提示した。 実験の結果,手掛かり刺激とターゲットの提示時間間隔(SOA)が短い条件(200ms)において,視覚手掛り刺激と触覚ターゲット刺激の形態的特徴が一致する場合の反応時間は,それが一致しない場合と比較して短くなった。このことは,先行する視覚手掛り刺激が後続の触覚ターゲット刺激の処理に影響を及ぼすことを示している。また,手掛り刺激の効果が,短いSOA条件(200ms)にのみ認められたことは,従来から知られているクロスモーダル注意作用の時間特性と合致する。続く実験では,上述の課題遂行時における事象関連電位を計測し,手掛かり刺激の効果がターゲット提示後160-300ms間の振幅成分に反映することを見出した。さらに,一連の実験から,視覚手掛かりの効果は,夕一ゲット処理の反応時間だけでなく形態的属性の弁別感度にも影響を及ぼすこと,またその効果は視覚・触覚間の刺激の形態的特徴が異なることによる抑制的作用を反映したものであることを確認した。
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