研究概要 |
人間は知的好奇心にあふれた存在であり,興味ある事物には自分から接近して調べてみようとする.しかし,知的好奇心を支える脳の働きについてはあまり知られていない.本研究では,被験者が自分の意志によって環境とのかかわり方を変えることができる課題で脳の電気活動(事象関連電位)を測定し,人間の知的好奇心の機序を明らかにすることを目的とする. 本年度は,2つの実験を行った.(1)行為に随伴した事象の認知情報処理を検討するために,被験者がマウスボタンをクリックした直後に刺激が呈示される課題で脳電位を測定した.およそ5回に1回の割合で刺激が呈示されない試行を設けたところ,クリックの約200ms後に陰性,350ms後に陽性の2相性の脳電位が生じた.陰性電位は右側頭部に限局した頭皮上分布を示しており,電流源密度を推定した結果,右側頭葉で発生していることが示唆された.この結果は,自分の運動によって情報を取り込むときの認知情報処理に右側頭葉が関与していることを示している.(2)ある対象に興味を持っているときの脳の状態を評価するために,関連プローブ法を用いた実験を行った.関心度の異なる2種類のビデオ映像を被験者に鑑賞させ,それと並行してヘッドホンから呈示される聴覚刺激の弁別課題を行わせた.関心度の高い映像を見ているときには,関心度の低い映像を見ているときに比べて,聴覚刺激に対する事象関連電位P3(P300)の振幅が減少した.この結果は,実験参加者が自分にとって興味ある視覚映像に多くの注意資源を自発的に配分し,聴覚刺激に向ける量が減ったために生じたと考えられる.人間の興味の程度を事象関連電位によって客観的に測定できる可能性が示唆された.
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