研究概要 |
本研究の目的は,方向感覚の個人差による認知過程の異質性を解明する前段階として,高精度の方向感覚測定手法を開発することである. 先行研究から方向感覚との強い関連が示唆される,方向推定能力,距離推定能力,心的回転能力,位置関係推定能力,現在位置推定能力,そして風景再認能力を測定し得る課題を作成した.これらの課題には,既知の実在空間を対象とするもの(実在空間版)と,未知で架空のCG空間を対象とするもの(CG空間版)の2種類を用意した.そして,浅村(2002,北海道心理学会)に従い,方向感覚を考える頻度が高い場合の方向感覚質問紙簡易版(SDQ-S)と課題成績の対応関係を検討することにより,各課題成績の精度を評価することとした. 被験者は,実在空間版で188名,CG空間版で168名であった.被験者は,SDQ-S,方向感覚を考える頻度に回答した後,実在空間版では課題ごとに制限時間内で可能な限り問題を解いた.CG空間版では,対象空間内の移動映像を2回観察した後,課題ごとに制限時間内に可能な限り問題を解いた. 方向感覚を考える頻度が高い群の結果は,実在空間版の場合,方向推定,距離推定,心的回転,そして風景再認での回答数とSDQ-Sとの相関が強いことを示し,CG空間版の場合,方向推定と現在位置推定での回答数とSDQ-Sとの相関が強く,方向推定と位置関係推定での正答率とSDQ-Sとの相関が強いことを示した.これらの結果から,方向推定については実在・CG空間版の両方,距離推定については実在空間版,心的回転については実在空間版,現在位置推定についてはCG空間版,そして風景再認については実在空間版の回答数が,方向感覚測定法としての精度が高いと考えられる.また,方向推定についてはCG空間版,位置関係推定についてはCG空間版の正答率が,方向感覚測定法としての精度が高いと考えられる.
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