研究概要 |
本研究の目的は,空間学習時にどのような空間情報を取り込み,認知地図へ体制化しようとするかについての,方向感覚の優劣による違いを,主に空間学習時の眼球運動パターンの分析から明らかにすることである. 前年度に開発した方向感覚測定法の中から,特に高精度で方向感覚を測定できると考えられる,方向推定課題,位置推定課題,そして風景再認課題の各成績と,被験者にとって未知の実在空間を学習する際の眼球運動パターンとの対応関係を検討することとした. 学習対象は,被験者にとって未知の実在空間内の経路であり,それを移動する映像が学習材料であった.被験者は,その学習材料を3回観察し,その経路上15箇所で撮影された静止画像を観察した.それらの観察の間,被験者の眼球運動パターンが計測された.その後,被験者は,方向推定課題,位置推定課題,そして風景再認課題を制限時間内に可能な限り多く解答した. 方向推定課題,位置推定課題,そして風景再認課題の各成績によって被験者を上位群および下位群とに分け,群間で学習時の眼球運動パターンの違いを検討した.その結果,両群間に明確な違いはあまり見られなかったが,全体的に,下位群の注視対象が上位群のそれよりもやや少ない傾向にあった.また,学習時の静止画映像を,方向転換地点付近と方向転換地点手前とに分類して群間の違いを検討した.その結果,方向転換地点付近では上位群が下位群よりも対象の形状や細かい対象に注視する傾向が見られ,逆に方向転換地点手前では下位群にそのような傾向が見られた. これらの結果から,方向感覚に優れる者は,全体的により多くの視覚的特徴を取り込む方略を指向し,特に,正しく経路を進むのに重要な方向転換地点付近で対象の詳細情報を取り込む方略を指向することが伺える.それに対して方向感覚に劣る者は詳細な情報を取り込む地点が適切ではないことが伺える.
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