本年度は主に、1)運動視の基礎となる透明視の知覚研究、2)コミュニケーション論に関する本の出版とその啓蒙活動、の2つの仕事を行った。透明視の研究については、実験の実施、データ収集、国際学会での発表、国際雑誌への発表などを行った。実験プログラムの整備を行い、拡大、縮小、および平行運動のoptic flowパターンを用いて、運動視のより基礎的なシステムに関する実験を実施した。具体的には、拡大運動と縮小運動の透明視条件を、回転や平行運動での透明視条件と比較し、その放射運動の特殊性を明らかにした。さらに、このテーマを発達的に明らかにするために、乳児を被験者とする運動透明視の知覚実験を行った。その結果、運動透明視は、4ヶ月の乳児から見えはじめること、その発達は3ヶ月から5ヶ月へと発達していくこと、5ヶ月の乳児における運動透明視の統合の限界は、ほぼオトナのものと同じであること、などが明らかとなった。 また、コミュニケーション論の出版に関しては、一貫して行ってきたノンバーバル・コミュニケーションの研究と関連性理論の関係を整理した。そこでは、日常的で具体的な事例をあげながら、旧来のコミュニケーション論がもつ矛盾を指摘し、「誠実原理」に基づく新しいコミュニケーション論について解説し、新書として出版を行った。また、一般向けのアートイベントや人工知能学会などでの招待講演を行い、会話におけるウソとホントの違いは何か、会話において意味が通じ合っているようにみえるときと見えないときはどう違うのか、誤解と理解の差は何か、などの日常的なテーマの解説を行った。
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