研究概要 |
本研究の目的は,視覚パターン認知に及ぼす加齢の影響を生涯発達的観点から検討することであった.本年度は,第1に,幼児(4歳・5歳・6歳)を対象に,形・模様・色の3属性からなる図形(3属性図形)と,形と模様,もしくは形と色の2属性からなる図形(2属性図形)を用い,共通属性を抽出させる共通属性抽出課題と異属性を抽出する異属性抽出課題を課し,視覚パターン認知の加齢の影響を検討した.得られた主な知見は以下の通りであった.1)共通属性抽出課題において3属性図形を用いた場合,形属性抽出は全年齢群ともに抽出できた.一方,色属性抽出については,4歳児は困難であったが,年齢が上がると共に抽出が可能になるという発達差が見られた.2)共通属性抽出課題において全年齢群共に,3属性図形よりも,2属性図形の方が共通属性を抽出しやすかった.3)異属性抽出課題では,全年齢群ともにすべての属性の抽出が可能であり,年齢による成績差は見られなかった.以上の結果を昨年度の高齢者のデータと比較すると,4・5歳児は後期高齢者と,6歳児は前期高齢者と,それぞれ傾向が類似していた.この結果をもとに,生涯発達モデルを考案した. 第2に,高齢期のパターン認知における,情報入力と内的操作の処理特徴を把握するための予備的実験をおこなった.先述した共通属性抽出課題を前期および後期高齢者に課し,同時にアイマークレコーダー(ナック社製・EMR-8)を装着させ,重要情報への注視時間や注視回数を直接的に測定した.その結果,注視時間や注視回数は,抽出可能な形や模様属性と,抽出が困難である色属性とで有意な差はなかった.つまり,色属性でも,注意は向き情報が入力されているが,課題への回答として出力できないということが示唆された.
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