平成15年度は、公共事業における紛争解決手続きの選好を規定する要因を調査データの分析を通して検討し国内での学会発表をおこなった。また紛争解決の基礎過程に関する実験研究結果の一端を2つの国際学会で発表した。 本研究は、公共事業の実施過程に関する行政手続きの公正さと、たとえ一部の住民に負担が生じるとしても社会全体の利益の向上をどれだけ優先するかという効率志向性が紛争解決手続きの選好に与える効果を検討した。 全国の一般成人を対象に質問紙調査を実施し872名から回答を得た。調査では、まず公共事業における行政の対応に関する手続き的公正評価と回答者自身の効率志向性の評価をおこなわせ、次に公共事業の実施において行政と住民の利害が対立した場合、それを公正に解決するためにはどのような手続きを重視すべきかを評価させた。 分析の結果、公共事業に関する行政手続きの公正さは、行政主導の意思決定手続きへの選好を強め、直接交渉や調停といった解決手続きへの選好を弱めた。また効率志向性は行政主導の意思決定手続きと住民投票への選好を強めた。これらの結果から、公共事業における紛争解決手続きの選好は、行政側の手続き的公正とその事業がどのくらい社会利益をもたらすかに規定されることが示唆された。 手続き的公正評価が行政主導の意思決定に対する選好を高めたことから、従来の知見と一貫して、手続き的公正と権威者による決定への受容的態度は強く関連していることが確認された。その一方で、行政に対する手続き的公正が低く評価される場合には、人々は、行政主導の意思決定手続きを支持しなくなるばかりでなく、市民の側に決定コントロールもしくは過程コントロールを積極的にとりもどそうとする傾向が認められた。このことは、人々が権威者の決定に対する受容的態度を強めたり弱めたりするだけではなく、権威者に対して能動的なはたらきかけをおこなうという研究視点の重要性を示唆する。裁判はいずれの変数からも影響を受けなかった。裁判はそのコストが大きいとともに紛争当事者間の関係を悪化させやすいことが知られている。本研究の対象者は一般市民であり、公共事業に対する関心は比較的高かったものの、かならずしもその当事者として回答したわけではなかった。裁判への選好が強まるためには、公共事業にともなう負担に対して、より焦点が向けられる必要があるかもしれない。
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