知的障害児・者はどのようにして見ているか-脳の可塑性の視点から発達支援を探る-

2002 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 14710066
• 研究機関: 茨城大学
• 研究代表者: 勝二 博亮 茨城大学, 教育学部, 講師 (30302318)
• キーワード: 知的障害 / 脳と教育 / 脳の可塑性 / 視覚認知 / 神経生理学

研究概要

学習により神経結合の再組織化が行われ、脳の可塑的変化をもたらす。近年では、ヒトの脳機能状態を探るための様々な非侵襲的な手段が開発され、研究も蓄積されつつある。その中でも、「教育と脳」との関係は注目されはじめている。本研究では、神経生理学的手法を用いて、知的障害児の視覚認知機能を発達認知神経科学的アプローチにより明らかにし、彼らへの発達支援上の手がかりを提供することを目的としている。以上の目的を遂行するため、平成14年度では以下の項目について取り組んだ。
(1)視覚探索活動に関する認知発達科学的研究:瞬時に情報を取り込むことができる範囲である静的有効視野の大きさが発達的に拡大することを明らかにした。また、視覚探索場面における視線移動を検討した結果、静的有効視野が広いことによって短時間でターゲットを検索できるなど、効率的な視覚探索が可能となっていくことを示した。
(2)知的障害者における視覚探索活動の促進に関する研究:視覚探索場面において非効率的な視線移動によりターゲットを検出している知的障害者数名を対象として、周辺視野の情報を用いた視覚探索活動を促す訓練を実施し、その効果を得ることができた。
(3)知的障害者の有効視野とその情報処理:知的障害者の有効視野が狭いことを報告するとともに、同時に記録した事象関連電位から、刺激呈示後200ms以降の情報処理につまづきがあることを明らかにした。
(4)視覚的注意に関する基礎的研究:基礎的研究として、選択的注意に関する心理学的研究を実施した。また、事象関連電位を用いた神経生理学的研究により、視空間的注意や注意のモダリティ間のスイッチングに関する情報処理を検討した。
(5)知的障害者の潜在的注意過程:注意機能の基礎となる潜在的注意機能に関して、事象関連電位を用いて検討し、知的障害者における潜在的注意が形成しにくいことを明らかにした。

研究成果

• [文献書誌] 勝二博亮, 大賀志真, 尾崎久記: "先行言語刺激のネガティブ感情価が選択的注意に及ぼす影響"認知神経科学. 第4巻2号. 185-189 (2002)
• [文献書誌] Shoji, H., Shinoda, H., Ozaki, H.: "The useful visual field and ERP topography in persons with intellectual disabilities"Recent Advances in Human Brain Mapping(Elsevier), In Hirata, K., Koga, Y., Nagata, K., Yamazaki, K.(Eds.). 723-728 (2002)
• [文献書誌] Shinoda, H., Mitsubayashi, T., Shoji, H., Ozaki, H.: "Topographical change of ERP due to displacements of visuo-spatial attention"Recent Advances in Human Brain Mapping(Elsevier), In Hirata, K., Koga, Y., Nagata, K., Yamazaki, K.(Eds.). 505-511 (2002)
• [文献書誌] Mitsubayashi, T., Shinoda, H., Shoji, H., Ozaki, H.: "Changes in event related potentials due to attention switching"Recent Advances in Human Brain Mapping(Elsevier), In Hirata, K., Koga, Y., Nagata, K., Yamazaki, K.(Eds.). 357-361 (2002)
• [文献書誌] Nakagawa, K., Shoji, H., Katada, A., Ozaki, H.: "How regularities in stimulus series and ISI affect on MMN in persons with intellectual disabilities"Recent Advances in Human Brain Mapping(Elsevier), In Hirata, K., Koga, Y., Nagata, K.and Yamazaki, K.(Eds.). 363-366 (2002)