学習内容の指導に関しては、各教科において認知心理学・認知工学的視点で、多くの指導案が提案されている。しかし、学級経営に関して、実証的な認知心理学的視点のものが少なかった。本研究では、教師が学級経営を円滑に行うためのRCRT(Role Construct Repertory Test)を土台にして、教師・児童間の適応を促す技法を開発し、そのフィードバック法も考察した。 そもそもRCRTはG.A.Kellyが提案した手法で、被験者がいかなる様式で世界を認知しているかを測定するものである。測定する側の枠組みではなく、測定される側がもつ固有の認知枠組みを測定可能である点で、きわめてユニークな測定手法である。教師版RCRTでは、教師が学級経営を行う際にクラスの構成員たる児童を、どのような固有の認知様式でみているのかが把握できる。この技法は既に多くの研究者・現職教員に利用されており、一定の成果をもたらしているが、適用上の問題点が数多くあった。その中でも最大の問題は、RCRTの実施の際の被験者への負担と、被験者へのフィードバック技法が乏しい点である。 上記の問題を解決するため、この三年間で、現職教員とのタイアップを測るべく、実際の現場の教員、さらには本学修士課程に在席する派遣現職教員とのラポールを十分に形成した。その上で、教師版RCRTのどの部分が現職教員として負担であり、どこを改良すればよいかを忌憚なく指摘してもらう面接・調査を行った。その結果、百名近くの現職教員から教師版RCRTの問題点を指摘してもらい、その分析を行った。その結果の一部は昨年度の研究実績「教師版RCRT改訂のための予備的検討I」でも報告したが、データが膨大で、すべてを報告できなかったため、本年度の「教師版RCRT改訂のための予備的検討II」でその後の経過も踏まえてさらに補充して発表した。 また、これらの面接・調査結果に基づき、現職教員に求められる重要な情報(教師の児童への視点の歪み、またそれをいかにして克服するかについてなど)を得るために、どのようなフィードバック情報が必要かも検討した。その上で、簡便なフィードバック技法を開発し、そのマニュアルを日本心理学会、日本教育心理学会において発表し、希望者に配布した。概ね好評で、賛同者を得られた。
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