研究概要 |
本年度は,英語音声単語の認知過程検討の基礎となるデータを得るために,日本語単語の認知過程について調べる実験を行なった。 音声呈示単語の認知に関する多くのモデルは,単語を聞き取る際に,聞き手は,語中の音素特徴を手がかりとして語彙に関する知識(心内辞書)を検索すると仮定している。これに対し,研究代表者は,日本語話者が語中の韻律特徴(ピッチアクセント)を心内辞書アクセスの手がかりとして単語認知の早期から利用していることを明らかにしてきた(Sekiguchi & Nakajima,1990)。これを受けて本年度の研究では,韻律特徴が心内辞書のアクセスをどの程度強く規定するのかについて検討を行なった。韻律特徴は,英単語の認知においても重要な要素であり,日本語話者がそれをどのように利用しているか明らかにすることは,日本語話者の英単語認知過程,ならびに熟達によるその変化について検討する上で非常に重要である。 様相間プライミング法による実験,および語彙判断課題による実験により,以下のことが明らかになった。(1)刺激語(例:丘陵)よりも使用頻度の高い"異アクセントの同音語"(例:給料)が存在する場合,刺激語の異アクセント語も,入力された単語の候補として活性化する。(2)この場合,異アクセントの同音語が候補から除かれるのは比較的遅く,刺激呈示から500〜1000ms後である。(3)刺激語(例:カラス)とアクセント型が異なるが,音素的に類似した単語(例:ガラス)も,候補として"弱く"活性化する。これらのことは,日本語単語の韻律特徴が,音素特徴に比べて,辞書アクセスの"弱い"手がかりであることを意味している。 本年度は,この他,英語音声単語の分節化における音素配列(phonotactics)の役割に関する検討を行なうために,Celex databaseを元に英語の音素配列に関する基準表の作成を行なった。
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