本研究においては、大きく分けて3つの視点から検討を進めた。第一は、我が国の通常の保育園においてどのような発達支援システムが機能しているのか、保育士はどのような支援システムを期待しているのかに関する調査研究、第二は保育士達がこどもたちの発達をどのような視点で見ているのかに関する調査研究、第三は実際の保育園訪問相談を通して、特定の事例について専門家と保育現場がどのような連携を保っていけるのかに関する事例的研究である。第一の調査研究から、「今現在、発達が気になる子」という問いに対して「集団生活行動」、「対人関係」と答える者が多く、そうした子どもへの対応において、「その子のためだけに時間が取れない」、「対応の仕方が分からない」という回答が多いことがわかった。さらに、「保育士が悩みを相談できる人や場所」に関する問いに対して、そうした相手や場所が「ある」と答えた者の4割近くが「園の他の職員」と答えていた。これらの結果から、保育士はこどもの集団生活行動や対人関係性の問題への対処に悩みながら、専門職のアドバイスを受けることも少ない状況に置かれていることが明らかとなった。第二の研究から、保育士が「気になる」こどもの発達状況に関して、「どのような点が気になるのか」に関する質問紙調査を行った結果、保育士達は、「多動」、「攻撃性」、「不注意」などのADHD的側面について最も気にかけていることが明らかとなった。次に「情緒面」あるいは「自己評価の低さ」などのこどもの心の健康に関する項目に関して不安を抱いていることが明らかとなった。第三の事例的研究から、発達に偏りを有する児童の保育支援において、専門家側の「こどもの状態を伝える」→「関わりのモデルを示す」→「保育士を巻き込んだ対応」→「保育士の対応の支持」という働きかけによって、保育士の安定した子どもに対する関わりが増加することが明らかとなった。
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