平成14年度は、独裁者ゲームを用いた2つの実験によって、「外集団成員からの被差別」という経験が、外集団一体視(集団を1つの主体のように捉えること)を生み、それによって敵対行動の一般交換(外集団のある成員によって喚起された敵意を、同じ外集団の別の成員へ向けること)がもたらされることを検証した。独裁者ゲームとは、分配者の役割をするプレイヤーが、ある一定額の報酬を、自分と被分配者の役割をする別のプレイヤーの間で自由に分配するものである。第1実験では、この独裁者ゲームを用いて、外集団一体視による敵対行動の一般交換が生じるかどうかを検討した。この実験の参加者は、最初に被分配者の役割をし、外集団成員(他学科生)の分配者に搾取される経験をした。次に分配者の役割をし、自分と他の1人との間で自由に報酬を分配する機会が与えられた。この際、その被分配者が、最初に実験参加者から搾取した者と同じ外集団に所属している場合(同集団条件)と、異なる外集団に所属している場合(異集団条件)が設定されていた。外集団一体視が起きれば、同集団条件の方が被分配者から搾取するはずだが、実験の結果、そのような差は認められなかった。これは、外集団成員から個人的に不当な扱いを受けた場合ではなく、差別的な扱いを受けた場合に、外集団一体視が起こるという神(2001)の指摘を支持するものである。次いで、分配者が、自分以外の内集団成員と外集団成員の間に報酬を分配する変形独裁者ゲームを用いて、それ以外は第1実験と基本的に同じ手続きで第2実験を行った。その結果、被分配者時に外集団成員による内集団ひいきで不利益を被った参加者は、分配者時に、同じ外集団の成員に対して少ない報酬を与える傾向が認められ、差別的な行為に対しては外集団一体視が生じ、敵対行動が連鎖することが示された。
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