研究概要 |
申請者はこれまで大学生における抑うつ予防プログラムとして,心理教育を中心とする認知療法的な取り組みと,エンカウンター・グループを用いた取り組みの2つを実施してきた。本年度はまず,既に実施したエンカウンター・グループの内容を分析し,実際にどのような心理的変化が生じるかを調べた。すなわちセッションの録音をテープ起こしし内容を分析した。その結果,導入期では親密感が確立していないため,戸惑い,人見知りの沈黙がしばしば起きた。展開期では,くつろいだ気分の快い沈黙と同時に導入期においても見られた戸惑いの沈黙が生じることがあったが,第9セッションにおいて劇的な変化が見られ深いレベルでの自己開示とそれを受け止めるグループの雰囲気が見られるようになった。また,セッションの進行に伴い自己実現度も高くなるなど,期待したような成果が見られた。しかし,健常者におけるエンカウンター・グループでは,親密な雰囲気になるまで時間がかかる(導入期が長い),親密化が進んでいないと深い自己開示が出たときに受け止め切れない,といった否定的な点もあり,深いレベルでの相互理解と,それによってもたらされるソーシャルサポートは十分には得られなかった。グループワークは,初期の友人関係を作るために用いるのが適当であると思われる(友人関係が既にできている集団においては特に必要がないかもしれない)。また,多くの健常学生を対象とした抑うつの予防的な取り組みの場合,コストを考えても,大学の授業などを活用した集団的な心理教育の方が必要であると考えられる。今年度の研究結果をふまえて,大学の授業目的に添った心理教育のプログラムを考案し,来年度の授業にて実施する。
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