本研究では、心理テストを用いて、性的虐待の疑いのある児童について、実際に被害を受けたか否かを判断する手法について研究した。まず、関連する欧米の実験文献、調査文献、児童福祉施設における資料やマニュアルを広範囲に収集し、それを分類整理した。その結果、性的虐待児の識別手法として、大きく分けて次の4種の方法があることが示された。すなわち、(1)インタビューによるもの、(2)投影法による心理テストを用いたもの、(3)子供の性的な行動のインデックスを用いたもの、(4)子供の精神的な症状に注目したインデックスを用いたもの。次に、これら4種類について、その実用可能性を2つの点から検討した。 第1点は、エビデンスすなわち、これらの手法を用いて性的虐待児を識別する場合に実証的な根拠があるかという点、第2点は、フォールスポジティブ、あるいはフォールスネガティブの比率である。このような検討の結果、(1)、(3)は比較的信頼性が高い手法であること、それに比べて、(2)、(4)は比較的信頼性が低いことが示された。つぎに、(2)の手法について詳細に検討した。メタ分析を使用するとともに、この手法を用いた研究のうち入手可能なものをすべて入手して分析したところ、(1)投影法テストによって識別力に大きな違いがあること、(2)性的虐待によって子供が受けた精神的な影響(うつ等)が投影法テストに反映してくる場合の指標は比較的信頼性が低いこと、(3)それに対して、性的な体験が投影法テストの中で再生される場合の指標、具体的には性器や性行為が投影法テスト時に描写されることや言及されることの指標については、比較的信頼性が高いことが示された。今後は、この(3)の立場に立った実証研究データの蓄積が必要であることが示された。
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