研究概要 |
本研究課題はトラウマティックな感情経験の個人内処理と集団処理メカニズムを解明することである。平成15年度は,平成14年度に引き続き,トラウマティックな感情経験の個人内処理過程,とりわけ衝撃的な出来事に直面した後の個人の認知・感情・行動反応に焦点をあて,大学生(一部,中学・高校生)の複数の標本に基づいてデータを収集し,解析を行なった。 研究1(心的外傷経験に対する思考・感情反応の研究)では,約300人の大学生を対象にして,現在も心を苦しめているトラウマティックな出来事(8種類)の有無,出来事が起こってから現在までの思考・感情反応の諸側面について自己評価するよう求めたデータを解析した。出来事に対する感情的評価は必ずしもネガティブな意味に留まるわけではなく,出来事の種類によってはポジティブな意味が見出されるものがあることがわかった。結果は日本心理学会で発表した。 研究2(記憶の再生様式)では大学生と中学・高校生を対象にトラウマ体験とポジティブ感情体験に関する記憶の諸側面について質問紙法により尋ねた。トラウマティツクな体験の記憶においてもポジティブな感情体験の記憶においても,出来事の周辺的情報より中心的情報がいっそうよく再生されることがわかった。この結果は日本感情心理学会および日本心理学会で発表する。 研究3(感情体験の社会的共有)では大学生を対象に幸福・悲しみ・怒り・恐怖の体験のエピソードを回顧させ,それらの感情体験が他者に伝播する過程について質問紙法によりデータを収集した。データは現在解析中である。
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