本年度は、先行研究の探査を中心とした研究課題の精緻化、およびシミュレーションモデルの検討を行った。先行研究の探査と研究課題の精緻化については、本年度執筆した申請者の既存の研究についてまとめ概説した論文(共著書、東京電機大学出版局より刊行)を踏まえ、詳細な整理検討を行った。シミュレーションの実査に当たっては、まず設備としてUNIX(Linux)ベースの高速なPCワークステーションを設置し、大規模シミュレーションの実行環境を整えた。モデルに関しては、Axelrod(1997)や、その拡張のShibanai et al.(2001)の枠組みを踏襲し、ランダムな特性セットを持ったエージェントを格子状に配置し、周囲(上下左右)との相互作用によって特性の変化を起こすコンピュータシミュレーションを設定した。申請者のこれまでの先行研究において検討した全体の情報を集約して均質な情報を流通させる「マスメディア機構」や、周囲との相互作用のみならず、固定された遠隔エージェントと、またランダムなエージェントとも相互作用を一定の確率で起こす「遠隔コミュニケーション機構」に付加して、特に今年度の研究においては、局所集団のエージェントにとどまらずにコミュニケーションできる固定的ネットワーク(レイヤー)を重層的に付加することによって、「バーチャル・グループ」をはじめとした多重な集団内、集団間におけるコミュニケーションが文化に対してどのような影響を与えうるかを検討し、実験条件としては、各レイヤーにおけるコミュニケーションの生起確率、レイヤーのサイズ、レイヤー数などを操作した。
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