平成14年度の当初の研究計画は、社会的ジレンマにおけるサンクションの提供と感情の役割に関して研究代表者が行った実験室実験の実験デザインを改良して再実験を行うというものであった。しかし、当該の実験データの再分析結果から、社会的ジレンマにおけるサンクション行動の基盤になると考えていた公正感が、サンクション提供に関して予測とは別の効果をもっていたことが明らかとなった。この実験結果を検討した結果、問題となる経済財の性質と公正感の関わりについて、より詳細な検討が必要であることが明らかとなったため、14年度には研究計画を変更し、ランダムサンプルを用いた社会調査により諸資源と公正観の関係について分析した。神戸市内で対称的な特徴をもつ2地域を選定し、それぞれ約200世帯の世帯主を対象とした訪問留め置き調査を行った。調査では、正と負の経済財の諸分配原理に対する公正判断を調べることを主たる目的とした。この調査の結果、分配公正判断に及ぼす諸資源の影響は、分配すべき資源が正の場合と負の場合で異なることが明らかになった。より具体的には、正の経済財の分配においては、資源の多寡に関わらず衡平分配に対する公正感が高くなるのに対して、負の経済財の分配においては資源の少ない群で平等分配が選好される傾向にあった。この結果から、社会的ジレンマ状況におけるサンクションの提供は、ジレンマの利得構造およびプレイヤーの所有する資源量により影響されることが示唆される。本調査ではまた、従来の社会的ジレンマ研究で、協力行動と高い相関があることが明らかにされている一般的信頼と公正感の関連性についても検討している。平成14年度はまた、公正感とサンクション提供の関係についての先行研究の結果を再検討するために、ヴィニエット実験を行った。このヴィニエット実験の結果は現在分析中である。
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