平成15年度の研究計画に従い、社会的ジレンマにおけるサンクションの提供と感情の役割に関して過去に研究代表者が行った実験のデザインを改良して、再実験を行った。先行研究では、被験者が実験者より与えられた現金をもとに社会的ジレンマにおける意志決定を行うよう実験状況を設定していたため、非協力行動がごく自然な行為として受け取られる傾向があり、マニュピレーションに問題があった。この反省に基づき、平成15年度第1実験では、集団メンバーの実際の作業量の総和に応じて金銭的報酬が与えられる社会的ジレンマ状況を用いて実験を行った。その結果、先行研究では見られた公正感とサンクショニング行動の間の関連が見られず、非協力者に対する、不満、怒りの程度が高いほど、サンクショニング行動をとる傾向が見られた。 また、平成15年度には、社会的ジレンマにおける協力行動の基盤のひとつとなる、信頼感に関する実験を行った。この実験では、囚人のジレンマを変形した委任分配ゲームを用い、他者一般に対する信頼感が高い人間は他者の人間性をより正確に見極める能力があるかどうかを検討した。その結果、高信頼者の方が低信頼者よりも人間性の見極め力があるという結果は得られなかったが、信頼感が高く、かつ、功利主義的人間観をもつ被験者が、委任分配ゲームにおける他者の行動をよく見極めていたという結果が得られた。一般に社会的ジレンマの実験室実験で用いられているような、匿名性保持のために被験者同士を対面させない方法では、相互協力を目指し、見極め能力のある個人でも、当然のことながら相手の人間性を見極めて協力行動をとることはできない。しかしこの実験の結果は、そうした非対面状況では協力行動をとらない個人でも、相手と対面し、短い会話を交わすことで、適切に判断し、協力の選択ができる可能性があることを示唆している。
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