本研究は、様々な認知的/社会的判断に「処理の流暢性の誤帰属」というプロセスが関与しているという仮説を通して、社会的認知における「意識」の役割を検討するものである。この仮説の検証のため、本年度は二つの実験を行った。一つ目は、昨年度に実施した実験を拡張するもので、「幼児期の記憶と幸福度の判断」における処理の流暢性の役割を検証した。手続きは昨年度のものとほぼ同じであるが、実験参加者に想起させる幼児期の出来事をポジティブ、もしくなネガティブなものに限定するという操作を付け加えた。その結果、処理の流暢性という主観的経験は、処理内容の感情価と相互作用するかたちで誤帰属を生じさせ、それが最終的な記憶判断や幸福度判断に影響していることが示唆された。この結果は第44回日本社会心理学会(於:東洋大学)で発表した。 二つ目の実験は、「処理の流暢性の誤帰属」という同じ仮説によって説明が試みられつつも、異なる研究背景のもとに発展してきた3つの現象(単純接触効果、対人認知の文脈効果、有名性効果)を、同一条件のもとで検証するというものである。これにより、表面的には異なる現象が、同一プロセスによって導き出されているかを確認できる。今回の実験では、3つの現象のいずれにも適用可能な判断刺激として人物の写真を用い、実験参加者には、3つの現象に対応する判断として、好意度、特性、知名度のいずれかの判断をさせた。判断に先立ち、写真刺激の一部は一度または繰り返し提示されており、それによって処理の流暢性が操作されている。こうした操作がが3つの判断課題に与える影響を検証することが主たる目的であるが、判断プロセスをより詳細に調べるため、昨年度来、注目している個人差変数や、既知刺激に対する記憶との関わりも検討している。こちらの実験については、現在、予備調査を終え、本実験の2/3が終了したところであり、来年度も継続する予定である。
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