初年度に引き続き、2年目にあたる今年度も、大部分の時間・労力・経費をインフォーマントとの接触によるラポール形成と、適切且つ的確なインタビュー・プロトコル及び質問紙の質問項目の選定・考案の2点に費やした。本研究は胎児の死という極めてデリケートな問題を扱うため、常にインフォーマントとの信頼関係を重視する研究活動を行う必要があり、これだけの時間を要したことはやむを得ない。具体的な成果としては、NPO法人「不育症友の会」との協力関係を深めることにより、同会の正会員を対象とした夫婦単位の質問紙調査を実現できるようになったことが挙げられる。各種サポートグループが行っている「『悲しかったこと・嬉しかったこと』アンケート」、すなわち断章化された言説の記述と一線を画するため、胎児・乳幼児の死にとどまらず、不妊や重篤な疾患を抱える乳幼児をめぐる社会科学・医学の問題を幅広く調査し、時間を掛けて社会心理学者がこの問題に果たす役割を見究めた。またサポートグループやカウンセリングに携わる専門家と交流して「現場の生の声」に耳を傾け、本研究に最も適切な研究手法は夫(父親)を主な対象とした質問紙調査であるという結論に達した。このように人権と学術的意義を考慮した準備を入念に行ったため、本年度は謝金を払う形式の調査を行わなかった。しかしながら、当初の計画通りに購入した機器やソフトウェアについては有効に活用した。具体的には、本研究で購入したMDレコーダ・テープレコーダ・ICレコーダにより、講演会における遺族の体験談などを録音した音声データの文字起こしが可能となった。この他には、本研究に必要な一般書・新聞記事及び学術文献について、再び検索・収集を行い、これまで作成してきた文献データベースに追加した。
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