国際移民によって国家主権は衰退しているのか。この研究上の問いを移民・外国人の市民権という観点から明らかにすることが本研究課題の目的である。今年度はこの研究上の問いにアプローチするため、まずは国際規範モデルを定式化することから始めた。国際規範モデルは、国家が自らの基盤を掘り崩すような外国人への権利付与を行う原因を国際規範および国際規範レジームに求める。国家は、国連など国際機関が推進している国際規範を遵守しなければならないという義務に基づき、外国人への権利を拡張していくと主張される。しかし、このモデルが有効であるためには、国家が国際規範を受容していくメカニズムを可視化する必要がある。そこで、「社会化」のアイディアを国家に適用することで、メカニズムを定式化しようとした。基本となったのは、抑圧、拒否、戦略的譲歩、慣例化、ルールに一貫した行動といった5段階のモデルである。社会化メカニズムを検証するために、日本を事例として選び、考察を行った。5段階に分けられる社会化メカニズムは、1970年代以降の日本の行動を時系列的にほぼ説明するのである。ただし、いくつかの課題も残された。第1に、国家のアイデンティティをどのように概念化すればよいか。第2に、時期や権利の種類によっては社会化モデルがあてはまらない場合もあり、補足的なモデルが必要となる。第3に、国家主権は何らかの利益がなければ主権を掘り崩しかねないコストを受容しない、ならばその利益とコストのバランスをどのようにとっているのか等。
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