「国民国家への挑戦」には2側面がある。第1に「国家主権への挑戦」。第2に「ナショナル市民権への挑戦」。本研究においては、「ナショナル市民権への挑戦」に絞って研究を遂行した。考察のポイントは以下のものであった。第1に、「人権」は国際移民の市民権を正統化する要因になりえているのだろうか。なりえているとすれば、その市民権は「正常な」モデルと言えるのか。第2に、「居住」は国際移民の市民権を正統化する要因になりえているのか。デニズンと呼ばれる人々は、単に「居住」を根拠として市民権を付与されているのか。第3に、国民国家を基礎とした「ナショナルな」市民権は、いまだ有効なモデルなのではないか。いやむしろその力が強化されている面があるのではないか。 これらの問いに答えるため、次のように研究を推進していった。第1に、先進諸国における国際移民の市民権を理解するため、まずは日本における外国人に対する市民権の発展をサーベイし、多文化主義の観点から理論的にまとめた。その成果は、すでに刊行されている学術雑誌論文3本および英国で出版された本の1章となった。 第2に、「ナショナル市民権への挑戦」という問いに答えるための理論研究を行った。この過程で次のような見地が得られた。「ナショナル市民権への挑戦」という問いとは、国際人権レジームの影響によって国際移民の市民権が拡大しているのかどうかという理論的な問いに収斂するのである。そしてその理論モデルに関しては、中国北京市における国際社会学機構の大会で学会発表を行った。 第3に、先進諸国における国際移民の市民権の発展を理論に基づき実証するため、文献資料を収集し研究していった。これらの文献資料を用いた実証的論文は近日中にレフェリーつき国際学術雑誌に投稿の見込みである。
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