平成14年度の研究計画は、吃音者のセルラヘルプ・グループ「言友会」の地域支部に連絡をとって、可能な限り集会への参与観察を行い、フィールドノーツを蓄積しつつ、今後の調査の計画・方針を練ることであった。その成果として、石川言友会、新潟言友会、東京言友会に参加を行い、いずれも良好な関係を持つことができた。今後は、これらの会への参加を続けながら、参加者の体験を詳細なデータに含めるため、インタヴュー調査を取り入れる。既に、石川言友会から二人のインフォーマントに協力を得る約束が出来ている。 一方、理論面では、自己物語論を研究し、セルフヘルプ・グループを物語の共同体としてとらえる視座が用意されつつある。この見方からすると、言友会は、グループの物語を模索する時期に至っており、参加者の間でも、自らの経験をとらえる物語様式がいくつかの類型に分けられる。とりわけ、「克服」の物語と「受容」の物語との間にある溝は、これからの言友会の意義と発展を考えるうえで、きわめて重要な論点になると考えられる。今後は、参与観察やインタヴュー、印刷物などによる物語収集を通じて、「克服」の物語と「受容」の物語との間に橋渡しの可能性があるのか、あるいは多元主義的住み分けが良いのかをリサーチ・クエスチョンとして調査研究を進める。 なお、予算面では、今年度に引き続き、地域言友会への参加のための調査旅費や、インタヴュー用の録音機器の充実が今後も主要な用途となる。
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