3年間の研究期間の初年度である14年度は以下の項目について調査分析した。 1.当該地域の地域研究の深化 当該地域は必ずしも閉鎖的な山村ではなく、その資源の乏しさゆえに外部社会からの様々な援助・補助を受け入れて存続してきた地域であることがわかってきた。申請者は、そのような歴史と現在のムラの多文化的状況との間には何らかの連関性があるのではないかという仮説を立てており、それを実証するためにムラの史・資料の収集および分析を行った。しかし、特に産業形態、土地の所有、通婚圏の変遷などの資料がまだ不足しており、これらの史資料を次年度以降に収集することによってより多角的に当該地域の村落構造を明らかにしたい。 2.当該地域のキリスト教徒に対する聞き取り調査 昭和5年の当該地域におけるキリスト教開伝以来、ムラのマイノリティであるキリスト教徒たちは様々な社会運動を展開して地域づくりを試みてきた。そして宗教的マイノリティである彼らは特に社会運動家・賀川豊彦の協同組合運動の思想を取り入れて長い間地域づくりをすすめてきたことが明らかになった。この地域のクリスチャンたちのナラティブ資料はある程度収集できたが、これと賀川の思想をより厳密に照らし合わせて分析することが課題として残されている。 3.農村伝道の調査および昭和初期からの当該地域におけるキリスト教徒の役割の分析 キリスト教徒への聞き取りより得られたライフヒストリーを資料として、「よそもの(stranger)」、「マージナルマン」「知識人」などの概念を道具として社会変動期における個人の役割を分析使用と試みたが、資料の収集までが本年度の限界であった。来年度は、農村伝道一般に関する資料も用い、当該地域のみならずより広いコンテクストの中で、この当該地域におけるキリスト教徒の役割を考察する。
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