平成14年度は、青少年における時間意識とアイデンティティの関係について、先行研究の収集と既存データの再分析をもとに、理論モデルおよび経験的仮説の検討を行った。 青年期のアイデンティティ形成に関しては、従来、時間的展望の不透明性との関連が指摘されてきた。しかし、既存データの分析を行ってみると、こうした関連は、いわゆる進学校の高校男子において顕著にみられ、一種の社会的メカニズムであることが示唆された。また、大学生の女子では、喫煙者のグループにおいて、ジェンダー像や時間的展望の揺らぎが顕著であった。 これらのことからすると、青年層の時間的展望を大きく左右している要因として、選抜システムとしての学校による「消極的加熱」と「積極的冷却」という2つのメカニズムの存在を想定することができる。一方において、進学校の男子に対しては、時間的展望を不透明にすることで受験競争から脱落しないように消極的に加熱していると同時に、他方において、大学生の女子の一部には、母親の時間との断絶を利用して、女子学生規範から自発的に逸脱させ、就業や就学のアスピレーションを冷却していると考えられる。このように、青少年における時間意識およびアイデンティティのあり方は、性と階層の交互作用の影響を受けており、それを選抜システムのあり方から捉え返すことが可能である。 平成15年度の研究においては、この理論モデルにもとづいて経験的研究を実施し、時間意識とアイデンティティのあり方を選抜システムという観点から具体的に明らかにしていく。
|