前年度収集・本年度補足収集した文献を整理し、韓国における社会福祉政策の主要な特徴と政策形成にかかわる主体について分析した。 まず主要な特徴としては、韓国の研究者がひんぱんに用いる「後進性」ということばに注目し、韓国の社会福祉の「後進性」の根拠と、その改善を推進する主体としての研究者の行為と特徴について分析した(「韓国の社会福祉と社会福祉研究」)。また、大幅な福祉改革が行われた金大中政権の動向に焦点を当て、当時の国政理念の一つである「生産的福祉」の内容と実態の検討を行った。生産的福祉による社会福祉・社会保障制度改革については、具体的な制度の変容を一次・二次資料等から把握し、それについての評価、批判を提示する論著を考察した(「各国社会福祉の現状:大韓民国」、「韓国の福祉国家形成戦略」)。この考察において改革主体としての国家、大統領、研究者の重要性を分析するとともに、市民団体、労働組合、民主労働党、知識人の行為の影響力の変化についても指摘した。具体的な成果は出せなかったが、収集した資料や現地調査からは、金大中政権後の盧武鉉政権では、大統領選のころから市民団体の政策におよぼす影響力が高まっていること、社会福祉現場での市民運動が広がっていることなど、マクロとミクロの段階で変動がおこりつつあることがわかった。医療保障政策の一部としての終末期医療についても継続した研究を行い、がんに対する国家の医療保障政策や、ホスピス・緩和ケア、老人保健医療の歴史と動向を、行政と民間の両側面から考察し、日本との比較分析を行った(「終末期医療の現在」)。
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