2002年度は、コミュニケーション障害を持つ人との相互行為場面のビデオデータの収集と、そのデータの整理・編集・管理などを行った。まず、1997年より継続してきた脳神経外科と老人保健施設が併設された施設での調査の一環として、2002年8月にも調査を行い、言語療法場面などを中心にビデオデータの収集を行った。 次に、現在までの調査によって得られたデータを、コンピューター上で処理可能なQuick Time形式に変換し、体系的に編集可能なデータベースを構築する作業を継続中である。また、上記のビデオデータを、個人を特定できる情報を消去しながら分析・発表可能な形態へと整序していくために、ジェファーソン・システムという表記法に則って、トランスクリプト化する作業も継続中である。現段階では、録画状況が良く研究目的にかなう場面を選定した結果として、言語聴覚士が行う個別リハビリテーションの場面7例のトランスクリプト化を優先する方針を採用しており、その1/2程度を達成している。 なお、研究計画調書提出時に行っていた、コミュニケーション上のトラブルを協働で修復していく方法についての研究は、すでに2002年3月にその一部が発表されており(「失語であることの生活形式-言語療法場面の相互行為分析-」東海大学総合教育センター紀要第22号)、そこでは、トラブルの自己修正(correction)が難しい場合であっても、自己修復(repair)の優先性の規範が尊重されつつ、修復活動が組織化される、ということが明らかにされている。現在構築中のデータベースに関しても、この修復活動の組織化という論点を中心に、相互行為への参加の形式についての分析を進めていく方針である。また、こうしたコミュニケーション障害についての相互行為論的研究の理論的意義を明らかにする論文も別に準備中である。
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