2004年度は、コミュニケーション障害を持つ人との相互行為場面のビデオデータの分析を行った。昨年度までの段階で、脳神経外科と老人保健施設が併設された施設での調査によって入手されたビデオデータのうち、言語聴覚士が行うリハビリテーションの場面7例のQuick Time化とトランスクリプト化を行ってきており、分析はこれを活用することによってなされた。分析によって示された論点は、以下のとおりである。 まず、失語症を持つ人との言語療法場面の分析によって、言い間違いや言いよどみなどのトラブルの自己修正(correction)が難しい場合であっても、自己修復(repair)の優先性の規範が尊重されつつ、修復活動が編成されていることが示された。また、この点に関して、誤りの修正を明確に行うような課題訓練などの実践のもとでも同様であり、個人の能力を焦点化することと他者への配慮を示すこととを、調整されたあり方で両立していくためのいくつかの方法について、詳細な記述がなされた。 次に、記憶障害を持つ人との言語療法場面の分析によって、知識についての記憶が問題化されるさいには、個人の能力が焦点化される場合があるのに対し、経験についての記憶が問題化されるさいには、「経験者」カテゴリーのもとで経験を語る権利が承認され、傾聴される実践が行われる場合があることが明らかにされた。また、こうした実践のレリヴァンスを管理するために、課題訓練を行う局面や物語を語り聴く局面などが、調整されたあり方で区別されていることがわかった。なお、以上の成果の一部は、「知識を示す能力・経験を語る権利-言語療法場面の相互行為分析2-」『東海大学総合教育センター紀要』第25号、にまとめられている。
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