今年度の課題は(1)先行研究のレビューおよび(2)マクロデータの収集および基礎的検討であった。 (1)については、欧米で近年精力的に検討されている「母子世帯のどのような要素が子どもの教育達成や女性自身のライフチャンスに影響を及ぼすのか」というテーマについて社会学の論文を中心に収集した。パネルデータや因果関係を精緻に特定できる最新の分析手法を用いた諸論文を検討した結果、高い世帯収入があったり、世帯主が専門職についている場合には両親のいる世帯と同等の機会をもちうる、という知見が得られていることが明らかになった。これらは社会的支援の内容について示唆に富む結果であると考えられる。 (2)に関しては、母子世帯の動態を把握するため、この10年間に日本国内で実施された母子世帯に関する調査としてどのようなものがあるのかについて調べた。母子世帯に関する調査は少なく、厚生労働省が継続的に実施してきた「国民生活基礎調査」については1998年実施調査で比較的詳細に調べられている他、1993年と1998年に「全国母子世帯等調査」が実施され、行政資料としてまとめられていることを確認した。これらの報告書を検討した結果、母子世帯と父子世帯との類型別データ、母子世帯に至る理由別のデータが圧倒的に多く、母子世帯と一般世帯との階層的地位の比較を可能とするデータはほとんど得られなかった。次年度は、さらに利用可能なデータの収集に努めるとともに、このような限られたデータからも一定の結果が得られるような手法の習得を目指す。
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