平成14年度は、研究計画に基づき、米国19世紀初頭に、州立師範学校設立に先行して「教職の専門性」を主張し、教師教育を開始していた教育者が存在していたことを、実証的に明らかにした。具体的には、事例(1)トロイ女子セミナリーにおけるエマ・ウィラードの思想と実践、事例(2)ハートフォード女子セミナリーにおけるキャサリン・ビーチャーの思想と実践、事例(3)マウント・ホリヨーク女子セミナリーにおけるメアリ・ライアンの思想と実践を解明した。当時は、教職は男性が牧師や医師になるための腰掛け職であるのが一般的だったが、これらの女性たちは初めて「教職の専門性」を打ち出し、専門的教師養成機関の必要性を訴えて、自ら教育機関を設立していた。その専門職像は、従来の知的卓越や肉体的優位を中心とする教師像と異なり、女性の持つ道徳的卓越性と母性を専門性の核と位置づけていたことが明らかになった。 今年度におこなった作業と研究成果の発表は以下の通りである。第一に、事例(1)に関しては既に収集してあった史料を検討し、研究成果の一部を、共編著『講座教師教育学第三巻』の巻末論文として発表した。第二に、事例(2)に関しては、平成14年6月初旬に二週間の渡米調査をおこない、史料の発掘と収集にあたった。調査先は、ハーバード大学ガットマン図書館、マサチューセッツ歴史協会資料室、マウントホリヨーク大学古文書館などである。この研究成果は、審査付全国学会誌『日本教師教育学会年報』第11号に発表した。第三に、事例(3)に関しては、上記の渡米調査によって収集した史料の検討をおこなった。現在その成果発表を準備中である。
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