本研究では沖縄の低学力の現状とその要因を、特にパーソナリティに着目しながら、調査を通して明らかにした。 分析に必要なデータを得るために質問紙調査を行った。対象としたのは、公立中学校2校の生徒300名、公立高校3校の生徒494名、合計794名である。調査は実際の学力を測定するための「学力検査」と、低学力の要因を探るための「質問紙」の二つの部分からなる。 調査データの分析結果から、第一に、概して沖縄の生徒の学力は県外に比べ低いこと、第二に、沖縄の持つ特有のパーソナリティが学力に対してマイナスの影響を与えていることが明らかになった。例えば、パーソナリティ測定項目であるビッグ・ファイブの「神経症傾向」得点は、県外に比べ沖縄の生徒の方が低くなっている、わかりやすい言葉で言えば、沖縄の生徒の方がほがらかでおおらかな性格をしているということである。こうしたパーソナリティは人間性という面から言えばむしろよいとされるものであろうが、こと学力達成に限定すれば、負の効果を与えているのである。学力問題の難しさをあらためて浮き彫りにすることとなった。 また、本研究では、教育社会学においては注目されなかった学力に影響を与えるさまざまな要因についても検討してみた。その中で、幼少期に絵本の読み聞かせをよくしてもらっている生徒の学力は高い、朝食を食べてから登校する生徒の学力は高い、早生まれの生徒の学力は低い、などの結果を得ることができた。これらの結果は、よりよい家庭環境が学力にとってプラスに作用するという社会学的な解釈ができる一方、最近急速に研究が進んでいる脳科学の分野においては、そうした行為が脳にプラスの影響を与えることによる効果であると解釈できる。奇しくも文部科学省は「脳科学と教育に関する検討会」を発足させており、こうした結果は、脳科学における研究成果と教育社会学的研究が連携していける可能性を示していると言える。 これらの成果は2003年9月に日本教育社会学会において発表し、いくつかのマスコミでも取りあげられた。また琉球大学法文学部紀要『人間科学』にも執筆している。
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