本研究の目的は、教育費(k-12学年)の税控除やヴァウチャーが先んじて構想され、実施された地域があったにもかかわらず、チャータースクールよりも全国的な展開が進まなかった背景を検討することであった。過去3年間の研究で明らかになったのは、私立学校の教育費に関わって税控除やヴァウチャーの実施には、合衆国憲法と各州憲法の政教分離規定および過去の解釈の克服が必要とされる点であった。これについては、近年の連邦最高裁判所の判決動向が、80年代半ば以降「中立性の原理」あるいは「便宜供与主義」に依拠するものへと変化しつつあり、90年代末以降には税控除やヴァウチャー政策を合憲としている。 さらに、近年の税控除の導入による各世帯の教育費軽減政策は、新保守主義を主張する共和党と同党選出のジョージ・W・ブッシュ大統領の個人的信仰体験に基づく宗教団体の各種活動への評価が相まって実施されている。すなわち、プライヴァタイゼーションという分権化と政府の権限委譲先として宗教団体を許容/信頼する動向がある。事実、1997年に始まる高等教育に関わる税控除政策(HOPE Scholarship Tax CreditやLifelong Education Tax Credit)は、クリントン政権時に成立したが、議会多数派を形成した共和党の要求を呑んだものであり、ブッシュ大統領は所得控除政策をこれに加えている。さらに、共和党選出の知事も同様の傾向が看取される。 教育費の税控除(tuition tax credit)の導入は、納税不可能な低所得層にとって直接的なメリットはない。その代わり私学に通学する児童生徒に奨学金を給付する奨学団体への寄付を控除する(universal tuition tax credit)のであれば、所得再配分機能として有効性をもつ。従来から教育費税控除には、中高所得層への優遇策である、税収入を減じ公立学校予算が削減されて公立学校児童生徒の教育環境が悪化してしまうといった危惧が示され、事実ブッシュ政権下の景気の減退で予算の縮減を余儀なくされた各州で批判が展開されている。 現在のアメリカ合衆国では、州憲法の政教分離規定、税控除、ヴァウチャー、チャータースクール、州経済の状況といった諸要素のバランスをとりながら、公立私立学校の区別を超えて児童生徒の教育機会の平等が図られようとしている。
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