平成14年度は、教育機関のフィールドリサーチを対象とした倫理網領にかんする資料収集、および、実践と研究の共同構築にかんする面接調査を行った。国内の倫理網領については、心理学・教育学・社会学系の学会、および、関連教育機関が発行した倫理規定にかかわる印刷物を中心に収集した。それらの資料を分析した結果、心理学系の日本発達心理学会では、学会監修によるガイドブックの出版に、社会学系の教育社会学会においては、ニューズレターにおける倫理宣言に留められているなど、フィールドリサーチを行う場合、審査機関の役割を果たす委員会制度は、国内の学会および教育機関では一般的に採用されていないことが明らかにされた。この事実を倫理観が未成熟であることに起因すると看做すかどうかは、文化的・歴史的な分析を要する課題である。一方、国外の倫理網領については、アメリカ合衆国、オーストラリア、ニュージランド、台湾および韓国における、学会、および、教育機関が発行した倫理網領を収集した。また、研究者が教育機関のフィールドに入るとき、実際にとっている手続きについて尋ねることを目的に、研究者と保育者を対象とした面接調査を、台湾において2月中旬に実施した(同様の面接調査を韓国において3月下旬に実施する予定)。台湾における調査では、西欧の高等教育機関への留学中に研究者としての訓練を積んだ後、母国の研究機関に勤めている研究者が多いにもかかわらず、教育機関のフィールドリサーチの実施にあたっては、「紹介」を重んじる等、母国の文化的・社会的価値基準に沿った運営が調査過程の随所に見受けられた。このことから、倫理網領の内容分析だけでなく、フィールドリサーチが実施される詳細な手続について、文化的・社会的な背景に照らした記述・分析を、今後とも行っていく必要がある。なお、海外における調査の実施時期について、所属機関の管財課職員より苦情および質問があったが、公務の都合と本研究の遂行上、調査地および調査の実施時期の選定については、その他の選択の余地はなかったことを付記しておく。
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