本研究は、固定的な制度のみならず、子ども、保育・教育実践者、保護者、倫理委員会の関係者および研究者の流動的な相互行為のなかに埋め込まれた教育研究における倫理規定の機能を明らかにし、実践と研究との間を取り結ぶ、倫理規定の体系、および、実践と研究との目的の共有化・随意化の様相を明らかにすることを目的としている。二年目にあたる平成15年度は、前年度に収集した資料、および、面接調査のデータを整理・分析するための、枠組みを検討するとともに、実際に地域で機能している保育実践/研究間の倫理規定にかんするフィールド調査を行なった。 まず、資料や面接データの整理・分析では、国内の心理学・教育学・社会学・民族学・民俗学系の学会が発行した倫理規定にかかわる印刷物、および、ホームページに公開されている情報を継続的に収集し、その歴史的な経緯の一端を明らかにした。また、国外の倫理網領については、アメリカ合衆国、オーストラリア、ニュージーランド、イタリア、台湾、および、韓国における、行政機関、学会、および、教育機関が発行した条例や規定の整理・分析を行い、日本における倫理規定の文化的な位置づけを明らかにするための基礎的な枠組みを検討した。 そうした、資料やデータの分析をすすめる一方で、近年、実践と研究との共同開発の成功例として注目され、年間を通して国外からの見学者が多数訪れるイタリア・レッジョエミリア市の関連行政機関の条例、および、教育機関等において実際に運営されている実践と研究との関係をめぐる関係者間の相互行為をエスノグラフィックな手法を用いて調査した。 本研究課題の採択は平成14年度に決定したものであるが、その後に発生した公務の都合により、この研究が予定どおり遂行できなかったことは誠に遺憾である。採択率が著しく低く抑えられている地方の短期大学の研究代表者が行なう科学研究費補助金による研究を制度的に保障する何らかの手立てが、今後、整備されることを強く要求する。
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