平成14年度にはドイツ(8月と3月)と日本(2月)において、上記研究課題に関する現地調査を実施した。 8月のドイツ調査では、市民側の難民保護に重点を置き、特に「教会アジール」(退去強制令が出されているが本国に戻れば迫害を受けるおそれのある難民を、市民が教会で保護するという現象)に焦点を絞った調査をした。この調査では、教会アジールの経験のある計11の教区を訪ねた。また全国の教会アジールを統轄するボンの組織でも調査を行なった。また3月には、11の中から研究上特に興味深い2つの教区を選択して調査した。さらに政府側の難民庇護の実践を明らかにするために、ニュルンベルクの連邦難民認定庁で視察とインタビューを行なった。これらの調査を通して、まず、国民国家、市民と難民との関係性、市民のアイデンティティなどとの関連で、教会アジールの「境界的な場所性」が明らかになった。また政府側の難民庇護制度の特徴として、難民の生活支援と一体となって遂行されていること、及び情報開示などによる外部への開放性の高さが分かった。 2月には東京で難民とその民間の支援者に関する調査を行なった。ここでは6人の難民及び難民申請者とのインタビューを行なった他、日本国内の難民を支援するNGOやキリスト教系団体について調べた。これによって民間側の視点を通して、日本の難民制度で特に難民及び申請者の生活支援と申請者の在留権の保障が課題になっていることが分かった。 総合的に言うと、以上の調査から難民庇護のようなグローバルな課題における、市民セクターの役割の大きさが浮かび上がってきた。歴史的社会的文脈の違いはあれ、日独両国でNGOや宗教団体が大きな比量をもって難民庇護に関わっている。これはグローバルな人口移動が加速する現状において、市民セクターには伝統的な国民国家を補完するポテンシャルがあることを示している。
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