タイ北部の北部工業団地において、若年工場労働者のセクシュアル・ヘルスの実態をフィールド・ワークによって調査し、衛生局、病院、家族計画協会、NGOにおける取組みの現状を聞き取り調査した。また、マヒドン大学保健医療政策研究センターにおいて、セクシュアル・ヘルスの実態分析や介入の方法に関する理論的研究を行った。 若年工場労働者は婚前性交渉や同棲を含む活発な性関係をもっているが、避妊や性感染予防についての認識は低く、人工妊娠中絶と性病が深刻な問題となっていた。工場労働者全体のHIV推定感染率は3.9%と高い。性別に見ると、男性では単純疱疹、淋病、梅毒を含む性病、女性では生理不順、人工妊娠中絶、性病が多い。これらのセクシュアル・ヘルスの問題に対する対処方法として、1.友人に相談する2.薬局で薬を買う3.クリニックに行く4.病院に行く5.ヘルス・センターに行く6.工場の医務室の看護師に相談するなどがあげられた。セクシュアル・ヘルスは極めてプライベートな問題であり、専門家に相談するのではなく、友人に相談して自分たちで対処していた。 若年工場労働者のセクシュアル・ヘルスに関する保健医療サービスとして、地元の衛生局とNGOによるエイズ教育、団地近辺の村に設立されたフレンド・コーナーという若者向けのカウンセリング・サービス、工業団地に隣接するハリブンチャイ病院(私立病院)によるカウンセリング・サービスがあった。これらの保健医療サービスの問題点は、医療機関内部の連携や医療機関と会社組織との連携が十分に発達していないことである。工場労働者の健康・福祉を担うすべての機関が工場労働者のセクシュアル・ヘルスに関する情報を交換し、その実態についての理解を深めるとともに、工場労働者が相談に乗りやすい環境を整え、コミュニティ・ベースの医療体制を整えることが望まれる。
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