本研究では、タイ北部の工業団地で働く若年工場労働者を対象に、彼らの性と生殖に生じている変化とそれに伴う健康上の諸問題を社会・文化的な観点から吟味し、その知見をもとに、工業団地における既存の保健医療サービスに性と生殖に関わるサービスを効果的に組み込むための具体的な提言を、ランプン県衛生局及び地域の病院に対して行った。 調査方法は、若年工場労働者に対するインタビューとアンケート調査、医療関係者(ランプン県衛生局職員、病院の医師・看護師、工場の医務室の看護師)とのインタビュー、及び工業団地とその近辺でのフィールドワークである。 若年工場労働者のセクシュアル・ヘルスに係わる健康問題は多岐にわたり、もっとも深刻なのは望まない妊娠と人工妊娠中絶であった。男性にはSTDや生殖器感染症が多い。いずれも友人に相談したり薬局で薬を買うなどして対処し、工場勤務に支障の無いように努めていた。 若年工場労働者のこれらの健康問題は活発化する性行動に起因するものとする医療関係者は、健康維持と性秩序の回復という二つの観点からの教育や保健医療サービスを行っていた。一方、若年工場労働者たちは性行動の自由は社会的自立によって得られたものであり、会社工場社会、より広く言えば工業化と近代化が進む現代社会への適応の様式であると考えている。'自由な性行動により図らずも起きた健康問題は会社工場社会への不適応の結果である。彼らの立場に立つならば、若者の性秩序の回復ではなく、会社工場社会における自己責任という観点からの健康増進を目的とする性と生殖の保健医療サービスを推進することが望まれる。
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