本研究の目的は、東南アジア、南太平洋、日本などの沿岸地域で生産され、中国食文化圏へ輸出される干ナマコをとりあげ、(1)生産技術がどのような変遷を経て現在に伝承されているのか、(2)製品はどのような流通過程(人的交流)を経て輸出されているのか、(3)生産地におけるナマコ資源の管理はどのようにおこなわれているのか、の3点について口承資料と文字史料の両方から跡づけ、「モノからみたアジア・太平洋地域史を再構築」することにある。この研究意義と期待される成果については、2002年6月にシンガポール大学で開催された「Foodscapes : The cultural politics of food in Asia」会議において発表し、好評・賛同をえた。 上記研究課題のもと、本年度は、資料・文献収集とその整理に重点をおき、野外調査は予備調査をおこなうにとどまった。収集した資料・文献は、1)日本経済史、2)近代世界システム、3)資源管理、4)東南アジア地域研究、5)太平洋地域研究の5分野に大別できる。まず、これらの分野における該当資料を渉猟し、関連する雑誌論文は、国立民族学博物館や京都大学東南アジア研究センターなどの図書室で入手した。干ナマコ生産に関する野外調査は、瀬戸内海地方の沿岸部(とくに岡山県、広島県、山口県)においておこなった。 収集した文献を整理し、a)沿岸資源管理の傾向と問題点、b)東南アジアにおける海洋資源管理について、それぞれ琵琶湖博物館でおこなった「コモンズ研究会」において発表した(2002年7月、2003年1月)。まだ、フィリピンにおけるナマコ資源の利用について、次頁にしるした2本の論文にまとめた。
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