本研究の目的は、東南アジア、南太平洋、日本などの沿岸地域で生産され、中国食文化圏へ輸出される干ナマコをとりあげ、(1)生産技術がどのような変遷を経て現在に伝承されているのか、(2)製品はどのような流通過程(人的交流)を経て輸出されているのか、(3)生産地におけるナマコ資源の管理はどのようにおこなわれているのか、の3点について口承資料と文字史料の両方から跡づけ、「モノからみたアジア・太平洋地域史を再構築」することにある。 しかし、上記課題にくわえて、ナマコ資源の保全をもとめる国際的枠組みによる「資源管理」という現代的・政治的な視点も無視できない。とくに米国が2002年にワシントン条約会議において、ナマコを付属書IIへの記載を要請したため、ナマコの国際的管理が緊急課題として浮上した。わたしも、2003年10月にFAO(国連食糧農業機構)が中国の大連で主催したワークショップAdvances in Sea Cucmber Aquaculture and Managementと2003年3月にCITES(ワシントン条約会議)がマレーシアのクアラルンプルで開催したワークショップTechnical workshop on the conservation of sea cucumbers in the families Holothuridae and Stichopodidae (Decisions 12.60 and 12.61)に、日本代表の科学者として参加し、ナマコ資源保全と漁民の自主管理について研究発表をおこなった。 本年度は、2003年7月に北海道の利尻島でフィールドワークをおこなった。コンブやウニといった磯資源へ依存するなか、利尻島におけるナマコ桁網漁業の経済的重要性は低いものの、捕獲に関して130グラムの重量制限と50トンの総水揚制限を、漁民たちが自主的におこなうという、興味深いデータを入手することができた。また、漁期に関しても、漁業調整規則の変更も視野にいれ、資源保全につとめているという。来年度も維続して、調査していきたい。
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