研究の初年度にあたる今年度は、以下に示すように、資料収集など、来年度以降の基盤になる作業を中心に研究を実施した。 1)法人類学関連の文献の収集、ムスリムを扱った映像や新聞・雑誌などのメディア資料など、ムスリムの表象についての資料を収集した。 2)フィリピンにおけるフィールドワークでは、主にアテネオ・デ・マニラ大学の図書館で、アメリカ植民地期の裁判資料を中心に文献資料を収集した。具体的には、アメリカ期の官報や最高裁版所の判例の検討をおこなったが、これら資料は、フィリピンのムスリムが、植民地政策下において、どのような価値観に基づき司法的に位置づけられていたかを示すものである。また、政府関係者から、ムスリムをめぐる現在の政策的状況を聞き取り、9.11以降、彼らを取り巻く状況が非常に困難なものであることが明らかになった。さらに現地のフィールド関係者から、調査地の現況などを聴取し、来年度の調査について相談を実施した。またアテネオ・デ・マニラ大学のフィリピン文化研究所では、文献収集と研究打ち合わせを実施した。 3)6月の日本アジア研究大会、7月のフィリピン研究会全国フォーラムでは、フィリピン人研究者と研究に関する意見交換をおこない、調査に関わる具体的助言を得た。 4)上記調査研究を通じてデジタルカメラ撮影によって収集した史料などの分類・整理に着手した。現時点では、犯罪や裁判の発生件数や、判例の中で用いられている民族・宗教カテゴリーに関する語彙などにアメリカ植民地政府の対ムスリム文化政策の特徴を読み取ることができるのではないかと考えられる。 5)日本の地域社会との比較検討という意味では、京都府丹後地方での、祭りにおける利害調整のフィールドワークを実施。また、京都府全体での地域づくりネットワークの実態把握に関わるようになり、様々な価値観の錯綜する地域社会の現状にふれた。
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