研究の中間年度にあたる今年度は、以下に示すように、これまで収集した資料にもとづく中間報告、資料収集および現地調査の継続を中心に実施した。 1)これまで収集した資料分析と視点にもとづいて、2003.7.7にイタリアで開催された第15回国際人類学・民族学会議の分科会III.6-82において、"Borders in Judiciary : Muslims in The Philippines"(単独)の学会報告を行った。フロアーからも非常に有益なコメントを得ることができ、多くの人類学者との議論により視野が広がった。また報告以外にも分科会に参加することで、本研究テーマの人類学動向の中での位置づけについて省察を深めることができた。 2)2003年8月から9月にかけては、フィリピン・パラワン島での法人類学的なフィールドワークを実施し、とくに以下の3点が明らかになった (1)同時多発テロ以降の世界情勢の変化に伴い、フィリピン国内のムスリムの状況も変動し、国内移動が社会変化をもたらしていること。(2)バランガイ正義法制度の適用が、村落レベルまでにかなり浸透し、所轄件数が増大し、内容も多様化していること。(3)先住民権利法の適用が開始され、パラワン島先住民、ムスリム、クリスチャンのエスニシティ状況に変化が生じていること。 3)1977年制定の「フィリピン・イスラーム身分法」の全文和訳および注釈作成をおこない、さらにその解説論文として「マイノリティの身分法-キリスト教的法伝統とフィリピン・ムスリム身分法」を執筆し、現在出版準備中である。 4)日本の地域社会への実践的還元としては、人類学的なフィールドワークと地域づくりを結合させる方向性を探るために、論文「交換と交流のまちづくり」『京都文教大学人間学部紀要』(投稿中)を執筆した。
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