本年度の研究実施計画 本年度は、申請者の所属する国立民族学博物館の標本資料ならびに国立民族学博物館には収蔵されていない資料について、太平洋島嶼地域の標本資料が豊富に収蔵されているビショップ博物館(ハワイ・アメリカ合衆国)において調査を行う。具体的な調査内容としては、 (1)骨角器の実物標本の観察および実測図の作成 (2)民族誌および歴史史料を用いた骨角器の用途や社会的機能の調査 を行なった。 ビショップ博物館における調査によって、太平洋島嶼地域でも特に骨角器製品の豊富なハワイにおける実際の資料を観察することが可能となった。これらの資料の多くは、申請者の所属する国立民族学博物館には収蔵されていない資料であり、昨年度ならびに今年度の所属機関での調査を補完する意味でも非常に有意義であったと言える。 特筆すべき知見としてあげられるのは、ハワイ地域における骨角器製品の素材の歴史的変化である。ヨーロッパからの商業貿易の影響により、極北地域のセイウチの歯牙が骨角器の素材としてハワイに輸入されたことにより、特にハワイの伝統的な製品であるタパの加工具が、従来の木製のものからセイウチの歯牙を用いて作られるようになっていったことが実際の資料を通して具体的に明らかとなった。このことがタパ生産にどのような影響を与えたかについては今後の課題として考えるべきである。
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