1 本年度は「研究実施計画」に従い、関係資料の網羅的収集を中心に作業を進めた。その一環として、「蔵人式」から「延喜蔵人式」と「天暦蔵人式」とを別々に抜き取ってくる方法を錬磨、一つの法制史料のなかから時代の違う法令を抜き取ることに成功した。また「源氏物語絵巻」の図像と文献史料とのつきあわせから、10世紀末における清涼殿のしつらいを具体的に復原することができた。中心となる古記録の悉皆調査は現在進行中で、3月現在、その調査結果のカード化を進めているところである。 2 上記の作業と並行して、9世紀から10世紀初頭にかけての天皇御膳の変化について分析を行った。その成果は以下の通り。 (1)この時期、天皇御膳の場が昼御座から朝干飯間に変化することを仮説として掲げていたが、「蔵人式」理解の進展にともない、その変化の時期が900年から922年までの間に限定できることが明らかとなった。 (2)朝干飯間が、いわゆる「和風」の平敷であることを証明するため、10世紀前半における清涼殿の復原に取り組んだ。この作業は現在進行中だが、これまで建築史の分野でも十分に行われていなかった分野でもあり、もし復原に成功すれば一定の価値をもつものになると思う。その過程で、装束史の専家である高田倭男氏のご指導をうけることもできた。 (3)そうした御膳の変化の背景を考える材料として、和歌の成立過程についての文化史的再検討も行った。その結果、朝廷内における和歌の浮上と御膳の変化との間に少なくない関係があることが判明し、その意味について考えることが来年度への課題として残された。
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