本年度は1)史料収集と2)成果の公表の両面において実績をあげることができた。 1)史料収集 16〜17世紀に熊本県芦北郡、下益城郡・宇土郡の境界地域において発生した大規模な戦乱に関する文献史料を集中的に収集し、分析成果を別記の論文及び著書にまとめた。また16世紀末の豊臣政権による朝鮮出兵についても、加藤清正の家老宛書状群や諸大名家中の下級武士や僧侶が書いた各種従軍日記の収集をすすめた。 2)成果の公表 2002年12月に、中央公論新社の「日本の中世」シリーズの第12巻として、『村の戦争と平和』の一冊を坂田聡、榎原雅治両氏と共同で執筆・出版した。本人の執筆部分は第3部「戦国から泰平の世へ」(211〜318頁)で、戦国期の戦争の本質とそれが克服され対外侵略をへて泰平の近世社会へと移行するまでの過程を、民衆の視点から描いた。本研究による史料収集成果を一般向け歴史叙述として普及する目的で執筆したもので、表記研究課題についての現在までの研究成果を総括したものでもある。 2003年3月には、「戦国大名領『境目』地域における城と村落」を発表した。大名どうしの領土紛争と和平が繰り返される郡の「境目」地域の典型例に即した、ケース・スタディである。境目地域で平和を創出しようとする大名権力と村共同体の長期にわたる営みが、史料収集の成果のうえに立って、戦国から近世への移行過程の究明にとって重要である点を主張したものである。 また、論文「兵農分離と侵略動員」を吉川弘文館の「日本の時代史」シリーズ第13巻に寄稿した。公表は2003年6月頃となる予定であるが、これも表記研究課題の内容にかかわる成果である。
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