本研究は、近世中期から近世近代移行期に、松前三湊と呼ばれた福山、江差、箱館で行われた芸能興行についての基礎的なデータの集積と、そのデータをもとに、「芸能」に視座をおいて、当該期の蝦夷地・北海道の社会構造・文化の一端を明らかにすることを目的としている。 平成14年度は、北海道立図書館、北海道立文書館、北海道大学附属図書館、市立函館図書館、松前町教育委員会、江差町教育委員会、国立国会図書館などが所蔵する史料から、本研究に関わる史料の収集に重点を置いた。その概要は、以下の通りである。 (1)芸能興行の制度的な枠組みに関して、近世期の松前三湊の「沖ノ口改」のなかの「興行」に関する規定、町年寄の公務日記に見られる芸能興行を出願した願書類、近代期の法令集から芸能興行に際して賦課された租税に関する規定などについての史料を収集した。 (2)芸能興行の実態を把握するためには、松前三湊に暮らしたさまざまな身分・階層の人々の日記類、そこを訪れた全国各地の武士・商人・知識人、外国人などの紀行文などが重要である。近世期から近代初期にかけての主な史料としては、松浦武四郎の紀行文、松前の神主・白鳥家の日記、松前藩士・木村氏の日記、場所請負人・伊達家の福山店の日記、江差の豪商・関川家の日記類などが挙げられる。また、近代期の史料としては新聞記事も重要であり、明治20年代までの『函館新聞』から、関係するデータを収集した。 以上については、データベース化を進めている。また、収集した史料の一部は、平成14年度に北海道開拓記念館が実施した分野別研究、特別展のなかで活用した。今後、東北・北陸地方との関わりを示す史料、民俗芸能に関する史料など、さらなる史料の収集とデータベース化を進め、本格的な分析に取り組んでいきたいと考えている。
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