今年度は律令に表れた文書行政システムの検討と、現存する古代・中世文書の収集が主となった。 律令文書行政制度に関しては、律令制における文書の果たした役割や、文書と帳簿の関係、計会帳制度などについて、従来の理解とは異なる新たな見通しを得つつあるところである。ただし、この問題は単なる法文上の理解にとどまらない。現存する古文書がなぜどのように伝来したのかという問題と深く関わっているので、現存古文書をどう理解するかという問題とも連動させつつ、全体像を把握する必要性を感じているところである。 史料の収集は刊本・写真版のほか、原本も、奈良を中心とする寺院の所蔵史料、また寺院より近代に流出した史料について積極的に閲覧した。世に知られていないが重要と思われる古文書の新発見もあったが、現状ではまだその古文書の意義なども確定していないので、公表は差し控えている状態である。 研究成果の欄に挙げた「興福寺の子院絵図」は、寛政年間に作成された興福寺子院の絵図を紹介したもの。興福寺の子院は、日本の古代・中世史を考える上での重要な問題を内包しているが、その研究の基礎資料となりうる史料である。「断酒の起請文」は、石山寺に伝来している聖教の紙背文書についての検討。起請文の作成・保存・廃棄の経過を明確にできた。ただし、起請文がいかなる契機で作成されたのかは問題を残していよう。 また「研究発表」欄に挙げたもののほかにも、奈良国立博物館『特別陳列 龍門文庫-知られざる奈良の至宝-』(2002年)・仁和寺御経蔵典籍文書調査団編『仁和寺御経蔵の典籍文書』(2002年)の執筆を担当している。いずれも、それぞれが所蔵する典籍・古文書について分析・紹介したものである。いずれも、重要でありながら一般にはあまり知られていない史料であるので、大きな意義を有していると考えている。
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