今年度は過去2年間の研究成果をもふまえて、テーマを体系的にまとめることを主眼とした。そこで、2004年度日本史研究会の大会報告(古代史部会共同研究報告。2004年10月10日)において、本科研テーマのまとめとなる報告を行なった。その内容は「研究発表」欄にも掲げたように、2005年2月に雑誌『日本史研究』510号に掲載された。この大会報告は古代の文書主義とその変容の様相を論じたものである。この報告には大きく二つの視座があり、一つは主として計会帳制度の検討から、いわゆる律令制文書主義の内実を問い直した。もう一つは、現存古代文書の検討から、いわゆる中世的文書主義へと連続する、当事者主義的側面を論じた。いずれの視座でも、期せずして下達文書の伝達に注目することとなった。従来別々に論じられることが多かったこの二つの視座を総体として把握することにより、古代中世における文書の機能をより深く把握できたと考えている。 なお大会報告に至るまでには、日本史研究会古代史部会の場において、三度にわたる準備会を行なった。日時はそれぞれ、2004年6月14日・7月26日・9月27日である。 それ以外には、「研究発表」欄に挙げた、「東大寺の新出文書」がある。これは、東大寺図書館で新たに発見した平安時代の古文書2点を紹介したもの。また、東大寺図書館での調査においては、他にも興味深い史料を発見しているので、それらについても報告すべく準備を進めているところである。 なお以上のような研究の過程では、奈良における大寺社・土地制度の、古代以降の変容過程についても考察する必要を生じた。今後はそのような点についても、より深い考察を進めていきたいと考えているところである。
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