本年度は前年度に引き続き対象地域である山東省〓南県大店鎮近辺に関する文献調査を中心に行った。山東省南部東部の清-民国期の地方志を閲覧した。ならびに2003年8月11日に高知で開催された「明清史夏合宿の会」にて「1850-1950年華北地域社会の地主と農民:山東省南部〓南県の荘氏」というタイトルでの報告を行った。その内容は以下の通り。 荘氏が地域の大地主へと成長するのは1850年代の捻匪の反乱が地域に波及した事件を契機とする。この反乱時に地域社会の在来のあり方は大混乱に陥った。結果、大地主が没落し中小地主層から新興勢力(荘氏もその一つ)が出現がした。彼らは19世紀末から20世紀初頭にかけて大地主へと成長した。この大地主は単なる大土地所有を実現しただけではなく、地域社会において名望・声望を有していた。政治的・経済的に圧迫する一方で人々の尊敬の念を集め、その地域社会での"君臨"が納得して受け入れられていた。これが地域社会の一種の"秩序"であると考えられる。抗日戦争時期にこの地域で共産党軍は日本軍と国民党軍と対抗した。大多数を占める農民層の取り込みを目的とする以上、荘氏などが取り持つ地域社会の秩序と対決せざるを得なかった。その手段の一つが44年以降顕著な地主層への攻撃、土地改革の施行である。同時に共産党はその行為の正当化のために、地主による強烈な政治的・経済的支配という側面を強調することとなる。
|